Chanson d'amour
闇夜のための歌
あの夜、あの人を殺めた
…伸ばしたこの手をお前は魔手と呼ぶのだろう…
や 焼け落ちる夜の生命
「止めてくれ…!」
ーー誰か
俺を止めて!ーー
あの雨の夜から
もう何千回と
繰り返される悪夢
「…シュラ」
(汗だくであいつの腕のなかに居ることに
こんなに救われているなんて…)
あの人の命の火と一緒に
きっと俺の魂も
地獄に堕ちたのだろう
み 湖を湛えた心臓
泣いてしまえば良いのにと
いつも思っていた
「ねえ、知っているかい?
涙は我慢しすぎると
心臓に溜まっていくんだって」
知っているんだよ
君の心臓には
涙の湖があること
君が嫌いだよ
泣けないくせに
湖の存在を悟らせる
君が嫌いだ
(泣いたら
私だってあの人の代わりに
君に優しくするのに…)
君の湖には
あの人しか手が届かないなんて
思いたくないのに
よ 揺籃は夢のみなもと
汗を滴らせ
揺さぶられる肉体を
他人事のように感じながら
途切れ途切れに漏れるくぐもった声に
耳を澄ましていた
繋がれた部分が擦られる
ひりつく痛みと
突き上げる肉の重み
中に感じている衝動だけが俺を
貫けば良い
もっと強く突いて
もっと
世界がぐらつくくらい揺らして
どうか
(夢を見させて…)
の 喉元に薔薇の灰
「餞に
この花園のすべてを
灰にして遣ったって良いんだ」
あの人の喉元に
もう一度とどめを
刺すことが出来るなら
「本気だよ」
そう云った幼馴染みの微笑みは
何時にも増して凄艶で
綺麗だった
「実際には、あの人は疾うに死んでしまって
とどめを刺すことも叶わない
厄介な話だよ」
美貌の薔薇の主は
そう云って
何処か愉快げに自嘲った
た 爛れた唇は接吻の所為
「君はシュラの尻だけ追いかけていろ
私は独りで地獄に堕ちる」
美しい幼馴染みの
形の良い唇が
呪わしい言葉ばかり紡ぐことに耐えられなくて
思わず
口を塞いだ
「…何をする!」
歯と歯がかち遭った痛みに
顔を顰めていると
件の幼馴染みの罵声を浴びた
「何もねえよ!」
済まん
なあ、無かったことにしようぜ
小さな切り傷から紅い血の滲んだ
薄い唇を
噛み締めている
歳下の少年の姿に
咄嗟の軽口をしまった
め 迷宮には天使が住むと云う
女神を聖域から追い
教皇を弑した人を庇いながら知らぬ顔で
教皇宮に続く薔薇の花園を統べる
(狂ってはいるかもしれないが
血迷っている訳ではない)
毒を喰らわば皿まで
(最期まで離れない覚悟で
傍に居るのです)
今傍に居るのは
あなたではなく
私
見ていて下さい
私は
私の唯一人には
必ず天使だと
云わせてみせますよ
の 伸びた手の行方は知れず
「自分には
救われる資格なんて無いと
思っているの?」
無謀を仕出かした自分を叱るでもなく
歳下の美しい幼馴染みは
穏やかに微笑った
「それとも
君が手を差し伸べて欲しい相手は
私たちではないと?」
…シュラ!…
淡々と問いかける蒼い双眸の奥を
見返すことが出来なくて
瞳を閉じる
伸ばした自分の手が徒に空を掴む
幻を見た
う 打ち捨てた翼が翔る
皆で笑いあえる未来など
綺麗事に過ぎないと割り切って
捨てて来たはずだった
「アフロディーテは一番
兄さんに似ていると思うんだ」
可笑しな話じゃないか
あの少年が私に
そんなことを云うなんて
(あの人も案外暢気に
『そうだな』なんて云って
笑っているのかもしれない…)
黄金色に輝くあの人の翼が
太陽に煌めきながら翔てゆく
そんな夢を見る
こういう日が
一日くらいあっても悪くない
今日だけは不思議とそう思えた
た 魂と肉のあわいで
「…俺じゃ不満か?」
自分から挑んでおいて
やはりあの人でなければ駄目なのかと
揶揄って見せる
口調に似合わない切なげな色を
銀灰の瞳に浮かべて
「はやく姦れよ」
欲しいとも
抱いてくれとも云えないまま
嗾ける
俺のなかの
体でも心でもない何処かが
空っぽで
何かで埋めていないと
狂いそうなんだ
…今更俺がこの手を
放す訳がないじゃないか…
(いつかどうかあいつの心にも
光が射しますように)
2011/11/08, Rei @ Identikal
超分かりにくいですが、射手山羊、蟹山羊蟹前提の年中組です。年中組は何だかんだでアイオロスと切っても切り離せない感じだと思ってます。
アイオロス、お誕生日おめでとうございます。清濁併せ呑んで笑い飛ばしてくれそうなところが、いつまでも大好きです。
「闇夜のための歌」お題元:"as far as I know"さまよりお借りしました。