Katholik


「愛読書は聖書ですよ?」




 「お前、カトリックか?」

デスマスクが教皇宮の某所、そう、多くの人間なら日に何度か必ずは世話になる場所で小用を足していると、後ろから声を掛けられた。目の前にある鏡を見ると、双子座の聖衣を着た美丈夫が、こちらを見つめていた。

「カノンか…いきなりなんだ?」

カノンはデスマスクからは一個飛ばしのところに立ち位置を決める。

「イタリア人だろう?カトリックか?」

「ああ」

そんなことかと、デスマスクは答える。

「…一応これでも、愛読書は聖書ですよ?」

教会には行かねえけどな、朝起きれねえし。と、デスマスクは言った。愛読書は聖書、は、勿論嘘である。デスマスクは地歴マニアで、戦記物を読みながら地図に、印を入れるのが趣味だ。


 「どうした突然?」

用を足し終わったデスマスクは、カノンに向き直る。どうしてこの男がこんなことを言い出すのかと、興味をそそられたのだ。

「いや、ちょっと思っただけだ」

カノンは答えない。が、若干彼が目を逸らしたその様子を見て、聡いデスマスクはすぐにわかった。

(この男でも、神に頼りたいような、そんな気持ちになるんだな…)


 「愛読書は聖書ですよ?」

と本気で言えていたら何か、力になれたのだろうか。

(いや、いらん世話だろう)

お互い、大人の男なのだ。

「あんな綺麗な男でも、俺と同様、出すものは出すんだしな」

俺と同様、悩んだりもするさ。聖衣に身を包んで用を足すカノンを置いて持ち場に戻りながら、デスマスクは、そんなことを思った。






January~February, 2007 Rei @ Identikal