「こういうとき、ほんとにどこか繋がってるんじゃないかと思うよ」
「おい、お前」
デスマスクが磨羯宮の居間のソファに突っ伏していると、頭上から声が降ってきた。
「何をしている」
どうやら本気で眠っていたらしい。と自嘲しながらデスマスクが見上げると、ギターケースを抱えた細身の男が、自分を見下ろしている。
「…シュラ?」
呼ばれた男は、体を起こした目の前の男からひどい酒の匂いが漂ってきて、軽く眉間に皺を寄せた。
「他に誰がいる」
(そりゃそうだよな…)
ここは彼の館なのだから。些か憤慨した様子の山羊座をぼんやり見つめながら、デスマスクは欠伸を噛み殺せない。
「締まらねえな」
そんなデスマスクを、シュラは可笑しそうに眺めた。
「試してみるか?」
途端にデスマスクは、寝起きとは思えない挑戦的な笑み浮かべる。未だ宵の口。
「今買ってきた弦を、ギターに張り終えたらな」
シュラは、顔色ひとつ変えずに、ソファの上で起き上がったデスマスクの隣に腰を下ろし、ギターケースを空けた。
デスマスクは、シュラのしなやかな指がするすると弦を巻き付けてゆくのを見ていた。
「…こういうとき、ほんとにどこか繋がってるんじゃないかと思うよ」
シュラの巻き付けている弦のもう一方の端に、デスマスクの指先が触れる。
「…勘違いじゃないか?」
シュラは、デスマスクの指の重みで、巻きかけの弦の張りが変わるのを感じた。
「現実にしてくれよ」
デスマスクの声がどこか、縋るように強請る。
「…繋がらせろってことか?」
綺麗な指を止めて、シュラが訊き返した。
「莫迦、身も蓋もねえ」
デスマスクが、指が触れる弦の行く先を目で辿ると、視線の先で、シュラが微笑った。漆黒の瞳が細められる。この、黒い瞳が、好きなのだ。
「来いよ」
デスマスクの挑発に、シュラも応戦する。どちらからともなく弦を辿り始める、指先が触れる。絡めた指に口づける。
二つの影が重なって墜ちる。
灯りが消されて。
暗闇のなかで、張ったばかりの弦が悲鳴を上げた。
January, 2008 Rei @ Identikal