神さえ恐れはしないというのに



 デスマスクは何も言わなかった。




 あの人を、神から授かったはずの、この手で伐った。

 この手は、神から与えられた、神の剣のはずで。

 自分はいつも、与えられたことは受け入れて、振り向かない、はずで。



 上の空で、気がついたら聖域に戻っていた自分の、帰巣本能。

 階の遥か上から、何も知らないデスマスクがいつものように自分に向ける、声。

 返り血を浴びて、立ち尽くす自分に駆け寄った影。


 「どうした、何かあったのか?」




 「アイオロスを、伐った」



 いつも饒舌なデスマスクは何も言わなかった。


 訓練で傷だらけになった自分に、「強くなれよ」と、手を握って云った。


 あの人を伐った手が、疼く。



 神に与えられた、剣としての自分。


 道具にしか過ぎない自分は、神さえ恐れはしないというのに



 この手が、


 力が、


 罪が、


 恐ろしい






February~March, 2007 Rei @ Identikal