いちめんのなのはな



いちめんのなのはないちめんのなのはないちめんのなのはな




 「ん〜〜」

「ふゎ〜〜」

午睡から醒めて夢うつつの二人は、示し合わせたように、ほとんど同時に欠伸をした。

「…シャカ?」

「ああ…君も起きたのか」

まだ寝惚けた頭で、幼馴染みの乙女座を見つめる獅子は、彼の目尻に涙の跡を見つけた。

「泣いていたのか?」

「欠伸をしただけだ」

ばか獅子。と憎まれ口を忘れない乙女座の華奢な腕が自分を引き寄せようとするのを、愛しいと思う。乙女座は抱きしめられたいとき、こうして自分から手を伸ばして獅子を急かした。



 「花畑の夢を見たんだ」

獅子は華奢な幼馴染みの躯を、抱き寄せて言った。

「お前の髪みたいな、綺麗な黄色い花が咲いてた」

「だから、どうしたというのだ?」

獅子の腕のなかで丸くなっていた乙女座は、逞しい肩に頬を寄せて、まだ眠そうな眼差しで、その琥珀色の瞳を見た。

「そう、お前の瞳の色ような若草色の海のなかに」

呟いて、獅子は、乙女座の淡い金色の髪に接吻をした。



 「いつまで…しているのだ」

照れ隠しに乙女座が腕のなかでもがく。獅子は抱きしめる腕の力を強める。

「放し給えよ」

乙女座の詰りを全く気にも留めず、獅子座は、窓の外を眺めた。午睡に傾れ込んだ処女宮の寝室では、開け放した窓からの風で、いつの間にかカーテンが開いていた。

「もう直、夕暮れだな…」

開けたままの窓からは、また風が吹いて、乙女座の髪を弄んだ。




 春の匂いがした。




 「月が見えるよ、シャカ」

自分の腕のなかでまた大人しくなった幼馴染みの髪を優しく撫でて、窓の外へと視線を促す。十二宮から見える山々の向こうに、日が沈もうとしている。

「…そんなに怖がらないで」

夜が来るのを。ねえ、すぐにひばりがまた、新しい朝を教えてくれるから。




菜の花畑に入り日薄れ


見渡す山の端、霞みふかし



いちめんのなのはないちめんのなのはな


やめるなひるのつき


いちめんのなのはな








2008/4/13, Rei @ Identikal



引用:「風景」山村暮鳥、「朧月夜」高野辰之

久しぶりの獅子乙女。久々すぎて、書き方が分からなくなっております。

菜の花畑がとてもきれいだったので、突発で書いてみました。