吐く息の白さを

quelques choses blanches dans les nuits noirs


冬だったね


十二宮の頂に降り積もった雪で、

雪合戦をしていた

寒い冬だった


走り回った後、思い切り肩で息をした

大きな、白い吐息が氷に変わって

墜ちてかき消える

その向こうに






は  春の君に縋る


春風みたいな淡い金髪に

若草色の瞳

夏の太陽みたいな、鮮やかな袈裟を着て


春が来たと思った

初めて出会った冬の日



どうか

この世の全てが凍り付いてしまった夜にも

あいつだけは

きっと、春のままで






  くずおれるように星が降る


崩れまいと唇を噛み締めていた君から

目を離せなかった



くずおれるように星が降っていた

あの人が死んだ夜






  祈りはいつも君の姿で


強くなりたいと思う、自分の祈りはいつも

あいつの姿で叶えられていた


あいつが、そばにいてくれる


それだけでどんなに強くなれたか


失って

初めて気づいたよ






  希望は奇蹟より痛い


亡骸を見たわけではないから、信じられないと云った


君が人知れず泣いている

横顔を誰にも見せたくなくて

知らない振りをした


叶わぬ希望を抱き続けることは

奇蹟を待つよりもきっと

ずっと苦しい


そして


一番美しいのは

現実を知る

君の涙






  残り火は何を焦がす


強くなることは

兄のようになることだと思っていた


兄の身代わりに

兄を伐った男の腕に

抱かれて


俺に

兄の面影を探す彼の

腕に抱かれて


分からなくなった


「もう、止めにしようよ」

自ら望んで抱かれて

自ら断ち切る

記憶という名の

想い


残り火は何を焦がす…?


分からなかった


ただ

肌にのこった彼の感触が

胸を灼くようで






  知らないままに笑ってろ


「お前は何も知らなくていい」

と云った君の

表情があまりにも強張っていて

不安になった


「そんな顔をしないで」

笑っていてくれよ

そう云って少しだけ表情を緩めた

君の哀しげな視線の先に


揺れる、冬の黒

冷たく澄んだ、情熱の






  ろくな愛をしらない


初めて肌を合わせた人は

俺を

誰かの身代わりに抱いた


それでも

合わせた肌の温もりに

包まれていたいと思った


寒い冬の日

あの人の痩せた背中に

縋り付くように腕を絡めた


きっと俺は

ろくな愛をしらない


彼との冬の終わり

階ですれ違ったあいつは

変わらない微笑みを浮かべていて


思わず

風に靡く髪を追うと

空が滲んだ






  最初に見た世界


修行だからと、ただの一度も目を開けてはならなかった

祖国を出て

初めて足を踏み入れた

真冬の聖域で


寒さに眉間に皺を寄せたわたしに

「どうして目を閉じているの」

と訊いた、初めての声


最初に見た世界にはもう、君がいたのだよ






を  幼い夢がまだぬくい


寒い冬を

身を寄せ合って過ごした

記憶のなかの幼い日々は

夢のようで


でも

そばにある温もりは確かに

今と繋がっている


君と


今までも

これからも






初めて、君を見つけた


駆けて来たのか

上気して、赤くなった頬

好き勝手に跳ねた、癖のある金茶の髪

息を弾ませて


白い歯を見せて笑った

君の笑顔が

この目で初めて見た

銀世界を

彩っていた







2007/12/23 Rei @ Identikal

お題は"as far as I know"さまよりお借りしました。


春待ちの歌。

は...こっそり縋っては、いつも勝手に救われてる。/ く...少し疲れたよ。でもすごくきれいだ。/ い...まるで信仰のようじゃないか。/ き...まだ絶望できないなんて。/ の...私は何を選ぶだろう。/ し...それを思えばなぜかほっとする。/ ろ...(けれど、けんめいに、君を、)/ さ...君の眼の中に。/ に...春はまだ在るか。