Tequila Sunrise
「くそ、頭が…」
蟹座の聖闘士デスマスクは磨羯宮の屋根裏で目覚めた。
「…飲み過ぎたな」
独りごち、怠い躯を捩って傍らを見るけれども、この宮の主はいない。ただ、カーテン越しの薄明かりに向かって、乾いた音を立てて、干されたテキーラの瓶が、転がっていった。
(…何時だ?)
二日酔いだ。頭が痛すぎる。体が怠いのはやつのせいだとしても…。そんな風に思いながら捩った躯の力を抜いて、もう一度窓の方に目を遣ると、背後で微かに、人の気配がした。
「…起きたか」
昨夜の官能を呼び覚まさせる、低い声。
「ああ…」
答える声はひとりでに擦れて、上ずる。男は、情事の後の倦怠に埋もれた、寝台の上の蟹座へ、静かに近づいてきた。
「ほら、飲め」
視界に入って来た男の手には甘いものが苦手な同居人の為の紅いオレンジ、アランシア・ロッサ。シチリア出身のデスマスクは特に、無濃縮の瓶詰め果汁の、酸味と仄かな苦味が好きで。その鈍い紅は、彼の銀灰の瞳が熱を帯びたときに、時折見せる色に似ていた。
「酒臭いな…」
怠くて体が起こせないのを見て取った男に抱き起こされ、接吻と同時に、口移される。
「飲み過ぎだ。…勃たなくなるぞ」
無駄な肉のないしなやかな上半身を晒す、淡い朝陽に浮かび上がる黒いシルエットが、口の端だけの、笑みを零した。
「朝勃ちしてるやつに言われると、説得力があるねぇ」
上ボタン2、3個が外れたままのジーンズの上から、僅かに芯のあるそれに、硬度を確かめるように触れる。男の腕に支えられたまま。初め、ほとんど熱を持たなかったそれは、数度撫で、少し硬くなったところに少し力を入れて握ると、忽ち服のなかで頭をもたげた。
「止めろ…」
抑揚のない声で制止した男の、黒い瞳が揺れるのが、好きだと思う。
「……」
何も言わない主人が抵抗しないのを良いことに、既に寛げられた前開きに、手を掛ける。
「頂きま~すvv」
「お前、二日酔いだろうが」
「黒山羊さんのミルクで元気にして欲しいのvv」
部屋に満ちたテキーラの残り香と、シチリア原産のアランシア・ロッサの接吻け。
屋根裏の窓に忍び込む淡い光が、緩やかに強さを増す。
オレンジの甘さも、グラナデン・シロップの甘い赤もなく、あるのはブラッド・オレンジの、血の紅だけ。
それでもこうして、今日も
陽はまた昇り
繰り返す
2008/6/28, Rei @ Identikal
Tequila Sunrise:
the original (tequila, crème de cassis, lime juice and club soda)
the popular concoction (tequila, orange juice, and grenadine syrup)